川勝平太先生からのメッセージ

「N.G.S.ジャパン」の名誉顧問の川勝平太先生より、平成16年11月9日の横浜市イギリス館における「フローラル・コンサート」にて、「N.G.S.ジャパン」への暖かなメッセージを頂戴しました。
心からの感謝と共にここにお知らせします。

港の見える美しい丘公園につどわれた皆様!
本日は、N.G.S.ジャパン主催のフローラル・コンサートに、ようこそ、お越しくださいました。
本来ならば、直接、ご挨拶を申し上げるべきところ、本業の公務で京都におりますために、それがかないません。 お許し下さい

N.G.S.ジャパンは非営利団体です。NGSは、 National Gardens Scheme(ナショナル・ガーデンズ・スキーム)の3つの言葉の頭文字をとったものです。日本では、「庭園福祉活動」と訳されています。1927年、今から77年前に、イギリスで設立され、長い伝統をもっています。
それは庭園と福祉を結びつける活動です。プライベートの庭を公開し、それを楽しんだ訪問客が、お礼に差し出す志を福祉に提供する、というのが基本的な活動内容です

イギリスでは3500以上の庭がNGSに登録されており、毎年冊子が販売されて、その冊子に、公開される庭の日時が記され、それを頼りに人々は訪れたい庭を選びます。訪問しますと、庭だけでなく、そこでティーとお菓子を楽しめます。そして、そのお礼に差し出した収入が福祉に回されるのです。
庭を見せる側は、自己流に丹誠込めた庭を、あらかじめ決められた日だけ公開しますので、準備もそれなりに大変とはいえ、極端な負担にはなりません。何よりも、訪問客の目を楽しませ、心をなごませ、しかも、収益が福祉に役立てられるので、いわば、ホストもゲストも、お金というより、自他ともに心の所得を得るのです。

日本では2001年6月に信州佐久市郊外の「メアリー・ローズ・ガーデン」という英国式の庭園が、その月の一週間分の入園料収入の一部を福祉に寄付したのが、始まりです。
この活動を、日本に紹介したのは、谷口多美江さんです。

その活動を始めるにあたって、谷口さんを激励してくださった方がいます。イギリスのダフネ・フォーシャムさんです。ダフネさんは当時NGS会長でした。
ダフネ会長は、はるばる、イギリスから信州のメアリー・ローズ・ガーデンにおける庭園福祉活動の初日にかけつけてくださいました。

ダフネ会長の挨拶は、今でも覚えていますが、その年のチェルシー・フラワー・ショーで、庭づくりの一等賞が日本庭園であったと、という嬉しい知らせをお持ちくださって、日本人の庭づくりのレベルの高さと、庭や自然によせる愛情のすばらしさをほめられ、そして「庭は、たとえ小さくても、見て楽しむに値するものであり、善意の人々にお見せし、それを福祉活動に使えます」と激励して下さいました。
N.G.S.ジャパンは、当初より、イギリスとの深い友情と信頼をもって、活動を開始したのです。
それだけに、N.G.S.ジャパン主催の「花のコンサート」が、由緒あるイギリスの旧総領事公邸で催されるのは、場所として、とてもふさわしい、と心から喜んでおります。

イギリスとの結びつきは、庭、それ自体にもあります。日本の庭園は、ユーラシア大陸の多くの庭園にみられるような左右対称ではありません。左右対称の庭は「幾何学式庭園」といわれます。
日本の庭は、それとは明瞭に異なり、あたかもそこに自然の景観が移されたかのような自然景観をとどめています。
それは「景観式庭園」と呼ばれています。日本の庭と、English Gardenとは「景観式庭園」として共通しています。イギリス人にとっても、日本人にとっても、遠い海の向こうの庭園趣味が、互いに相通じているのは、とても楽しいことではありませんか。

横浜は、開講当初から、イギリスとはとりわけ深いかかわりをもってきました。そうしたゆかりの地、横浜の海の見える丘のイギリス館で、本日は、こころゆくまで、楽しいひとときを、お過ごしください。

国際日本文化研究センター(日文研)副所長
N.G.S.ジャパン名誉顧問 川勝平太